バイオの技術者にとって、培養のスケールアップはみなさん苦労されていると思います。
フラスコやジャーレベルから商業規模へのスケールアップは責任も大きくなりますし、私も何度やってもちょっとビビります。
はじめてスケールアップをする人にしたら、「失敗したらどうしよう?」「どうやればいいかなんてよくわからない!」など、不安しかないですよね。
今回は、培養のスケールアップに関しておさえておくべき、5つのポイントを解説します!
- 理想となる培養経過図を手に入れる!
- すでに製造している品目の条件をパクる!
- 殺菌方法の違いを知る!
- スケールアップ時のフレを考慮しておく!
- スケールアップ指標はあくまでも参考程度に!
以下、5つのポイントについて解説します。
理想となる培養経過図を手に入れる!
まず押さえておきべきポイントとしては、理想となる培養経過図を手に入れることです。理想となる、、ってどういうこと?って思いますよね。
簡単にいうと、目的物の収量を最大にできる培養経過図をもっておくということです。
これは、商業規模で再現すべき目標、「目指すべき地図」となるからです。
例えば、ジャーレベルでこの培養経過であれば、8割以上上手くいくという経過図のことです。
再現性も含めてここで理想となる培養経過図をおさえておけると後々だいぶ楽になります。
例えば、DO値が現場では低くなりすぎということであれば、通気撹拌を上げるなど、条件変更で対応することができます。
行き当たりばったりでスケールアップすると、初回は上手くいったとしても後で必ず苦労します。
まずは地図となる培養経過図を入手すること、これが1つ目のポイントです。
すでに製造している品目の条件をパクる!
実際に商業規模で製造している品目があれば、この条件をそのままパクりましょう!
このとき、微生物の種類(細菌、カビ)などによって条件は変わるのでその点は考慮してください。
なぜ、パクるのがいいのかというと、それは、、、
「実際に現場で培養が成り立っている」
この事実が重要です!
スケールアップ指標についてはあとで説明しますが、まずはスケールアップしようとしている品目に近い培養条件をパクる、真似ることが最短です。
「技術者であれば一から条件を組まないと」、「そのままパクるなんて恥ずかしい」と思うかもしれません。
ただ、間違いなくパクった方が早いし、成功確率が高くなります。
これまで現場で積み上げてきたものを活用すること!
2つ目のポイント、意外と大事です!
殺菌方法の違いを知る!
ラボでは、培地殺菌をおこなうときはオートクレーブを使用します。
ただ、商業規模の培養タンクだとオートクレーブは使用できません。
それではどうするのか?
蒸気を培地に直接吹き込んで培地を殺菌します。
そのため、以下、決定的に違う点が発生します。
- オートクレーブ殺菌:液量はほとんど変化しない!
- 蒸気殺菌 :蒸気ドレンにより液量が増える!
季節や殺菌条件にもよりますが、約1割は水が増えるかなと個人的には思います。
そのため、ラボの条件をそのまま現場にもっていくと殺菌後に間違いなく薄まります!
蒸気殺菌によって薄まることも考慮して、仕込み水の量を設定する必要があります。
これは私は仕事をはじめた当初、全然知らなかったです。液量が増えるってどういうことって思ってました!
これが3つ目のポイントです。
スケールアップ時のフレを考慮しておく!
さきほどの殺菌方法の違いのところでも説明しましたが、設備が違いでフレが発生します。
例えば、培地の状態をラボと現場で全く同じ状態にすることは不可能です。
そのため、予備実験としてフレを考慮した実験は必ず実施しておく必要があります。
例えば、ミニジャーを使用した実験では以下のような感じです。
- 通気量 :0.5±0.1vvm
- 回転数 :500±100rpm
- 培地濃度:±10%
±の幅で多少フレが発生しても、培養経過が大きく変化しないことを確認しておくこと、これが大事です。
「現場ではプラスマイナスのフレが必ず発生する」
これが4つ目のポイントになります。
とくに、開発部で設定した条件は、ピンポイントに絞りすぎてスケールアップがうまくいかない場合が多いように思います。フレを考慮していないことも原因の場合が多いです。
フレがあることを前提に条件検討を行うこと、これ大事です。
スケールアップ指標はあくまでも参考程度に!
培養のスケールアップと聞くと、KLa、OTRという言葉を聞くと思います。
これはスケールアップでよく聞く指標です。
- KLa(酸素移動容量係数)
- OTR(酸素移動速度)
私もいろいろと勉強しましたが、結論からいうと参考程度でよいという考えです。
理由は、、、
これらの指標はこれから新たに培養槽を設計する際に必要となる指標だからです。
ラボのミニジャーでの結果を反映させて、培養タンクを設計する場合に必要になりますが、すでに培養タンクがある工場だと参考程度で仕事はできます。
プロセスの改善に関わる技術者であれば、これまで説明した1~4のポイントをおさえる方が実務には役立ちます。
KLa、OTRは培養の技術者として、おさえておくべき知識には違いないですが、指標に縛られ過ぎてもよくないです。
現場で上手く培養が成り立ち、スケールアップができること、これがまずは正解として対応することが技術者として必要なスキルじゃないかなと思います。
まとめ
培養スケールアップについての5つのポイントを解説させていただきました。
この部分に関しては、ベテラン技術者の方は個々の経験値として自分なりのメソッドを持っていると思います。
ただ、はじめてスケールアップする人にとっては非常にハードルが高い仕事であることは間違いないです。
今回、紹介させていただちポイントをおさえればすべて上手くいくというものではないですが、私の経験からおさえておくべきポイントとして紹介させていただきました。
ぜひご参考下さい。
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